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歌い手になる後押しをしてくれた児童館は一生の思い出の場所

NHK Eテレ「おかあさんといっしょ」21 代うたのおねえさんとして活躍し、この春卒業した小野あつこさん。大学生時代には、児童館でのアルバイトを通じて子どもたちとふれあったそう。 幼いころから利用していた児童館での思い出と、今後の活動についてお話しいただきました。
(※本インタビューは情報誌「じどうかん」2022夏号に掲載されています)


児童館での楽しい思い出


子どもの頃は、人見知りで引っ込み思案。そんな私に「同世代の友だちをつくってあげたい」と思った母が、幼い私を連れて行った先が児童館でした。母のおかげで児童館が大好きになり、小学生になってからは、家に帰るとランドセルを置いてすぐに児童館へ遊びに行くようになりました。通っている学校も学年も関係なく遊び、気付いたらみんな友だち。そんな様子を児童館の先生が優しく見守ってくれていたのを覚えています。

夏には、流しそうめん、お泊りキャンプの肝だめし、秋には縁日もありました。地域の講師の先生に教えていただきながら、輪ゴムを使った絞り染めをしたり、卵の殻を使ったキャンドルづくりに挑戦もして。いまでも覚えているほど楽しい思い出ばかりで、家と学校ではなかなかできない体験をたくさんさせていただきました。

音楽が好きだった私は、4歳の頃からピアノ教室に通っていました。5歳下と7歳下に弟がいて、小さい子と一緒に遊ぶのは大好きだったこともあり、中学に上がるころには自然と「ピアノの先生になって子どもたちに教えたい」と思うようになりました。音楽科のある高校へ進学したのですが、オペラや歌曲の魅力にひき込まれていくなかで歌の勉強を本格的にするために音大の声楽科へ進みます。

もともとの夢だった「子どもとかかわること」から遠ざかってしまった一方で、子どもとのかかわりも持ちたくて、「将来どうしようか」と考えていた大学1年生の夏休み、たまたま区報で児童館のアルバイト募集を見つけました。子どもの頃に大好きだった児童館の思い出がよみがえり、「これだ!」と思い、児童館でのアルバイトをはじめました。


児童館での出会いがうたのおねえさんの後押しに


児童館でのアルバイトは指導員さ んの補助を務めました。午前中は乳幼児クラブのお手伝いやイベント準備を行い、午後になると小学生の子どもたちと一緒に遊びつつ、安全を見守る。夏休みには学童クラブのお手伝いにも行きました。


アルバイトを通じてできた、さまざまな出会い。1つは、同世代の仲間たち。大学で児童心理学や社会福祉を学ぶ学生ボランティアのみんなや、児童館の職員としてすでに働いている同世代の方にも出会いました。両親と同じ世代の方にも仲良くしていただき、音楽一色だった日常から違う世界へと広がった感覚がありました。


館長先生は、働くみんなの個性を大切にしてくれる方でした。それぞれの特技や趣味をきっかけに子どもの興味関心を引き出すことに取り組んでおり、ダンスが得意な人が子どもにダンスを教え、小物づくりが得意な人が、子どもたちに手芸を教えていました。私にも「音楽の時間をやってみたらどう?」と提案してくださって。思い切って、「音楽が好きな子は音楽室に集まってね」と声をかけたところ、いつもは体育室で遊んでいる子たちも集まってくれたんです。


子どもたちのリクエストを交えつつ、みんなの好きな歌をキーボードで弾いて一緒に歌ったり、楽器を使ってリズム遊びをしたり、グループにわかれて「おもちゃのチャチャチャ」で発表会をしたりもしました。このころの経験を通じて、子どもたちから「一緒に音楽を楽しむすばらしさ」を教えてもらった気がします。

活動を見ていた館長先生が「うたのおねえさんに向いてるんじゃない?」と言ってくださったことがありました。当時はそんなチャンスが来ることすら想像していなかったのですが、今思うと不思議なめぐりあわせだと感じます。館長先生の言葉や子どもたちと過ごした時間が、私を後押ししてくれたのです。


私にとって児童館は生涯の思い出に残る場所


児童館ではたくさんのことを学びましたが、一番の大きな学びは「子どもへの接し方」です。一人として同じ個性を持った子はいないので、それぞれの個性を尊重し、愛情を持って接する。それは先生方の子どもへの接し方を見て学んだことで、うたのおねえさんになってからもずっと生きています。収録前に子どもたちと一緒に遊んだり、保護者の方から離れることに戸惑う子どもと接したりするときに、先生方の姿とともに、そのことを思い出します。

私にとって児童館は、これからもずっと、生涯の思い出に残る場所。子どものときからいろいろな経験をさせてもらい、アルバイトでは大人の立場で、楽しんでいる子どもたちの姿を見ることができました。子どものとき見ていた「おかあさんといっしょ」に、今度はおねえさんとして出させていただいたことと似ているなと感じています。

とてもお世話になった児童館という場所で働かれている皆さまに、今回このようにお話できる機会を設けていただけたことをとても嬉しく感じています。児童館は、いつの時代も、子どもたちが安心していられる場所、そして保護者の方々が安心して預けられる場所であり続けてほしいなと思います。社会環境が変わりゆくなか、想像以上に大変なこともあると思いますが、児童館で働かれる皆さまが、健やかにお仕事されることを願っています。

うたのおねえさんを卒業したこれから先、応援してくださる皆さんへ直接歌を届ける活動ができたらと思います。「コロナ禍で都市部へ行きづらい」というお手紙を目にする機会も多いので、さまざまな地域へ積極的にうかがいたいです。


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Ⓒ小野あつこ【公式】Twitter @ono_atsuko12


 


<プロフィール>
おの あつこ
1991年12月12日生まれ。3人姉弟の長女として東京で生まれ育つ。東京音楽大学・大学院で声楽を学んだ後、2016年4月からNHK Eテレ「おかあさんといっしょ」21代うたのおねえさんを6年間つとめる。2022年春、うたのおねえさん卒業後も「近所のおねえさんのような親しみやすさ」をモットーに、子ども向けの活動を続ける。元気の源は食べることと、人や動物とふれあうこと。好きな歌は「にじ」(作詞:新沢としひこ 作曲:中川ひろたか)。

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