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「遊び」から子どもの可能性を広げるには?専門家にきく

子どもの頃によく言われる「よく学び、よく遊べ」。子どもたちの「学び」については、学校以外にも習い事や塾などさまざまなプログラムが世の中にあふれています。一方、「遊び」については大人の立場からどのようなサポートができるのでしょうか。

全国の児童館を支援する児童健全育成推進財団では、児童館職員向けのオンライン学習会で、子どもが主体性を発揮できる環境づくりの専門職プレイワーカーの第一人者である嶋村仁志さんを講師に招き、「遊んでいる子どもとのかかわりを考える」をテーマにお話を伺いました。


児童館にかかわらず、子どもにかかわるすべての大人へ、「遊び」を通じて子どもの可能性を広げるための心構えやテクニックをご紹介します。


「遊び」は子どもの本能


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そもそも「遊び」とはどのような意味でしょうか。「国連子どもの権利条約第31条によれば、「子どもの遊びとは、子どもたち自身が主導し、統制しかつ組み立てる振る舞い、活動またはプロセスである」とあります。子どもの遊びは、自分から始め自分でルールを決めるもの、誰かがが何かの目的のためにやらせるのではなく自分がやりたくてやる本能的なものである、ということです。


嶋村さんは「遊びは生き物としての命のしくみに組み込まれた子どもの本能であり、遊びを通じて自分で自分を大丈夫にすることができます」と語ります。


また、遊ぶことの最大の効用は「もっと遊びたくなること」であり、友達ができる、運動や勉強ができるようになることは、その結果のひとつでしかないそうです。もっと遊ぶことで、心と体の関係のバランスをとれる領域がどんどん広がって、自分で自分を育てていくサイクルが回っていくと言います。


こんなときどうする?大人の心構えとテクニック


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「子どもたちが廃材でベンチを作っています。こんなとき、みなさんはどうしますか?」嶋村さんが一枚の写真を見せ、それについてどのように大人が関わると良いと思うか、ディスカッションを行いました。「静かに見守る」から「一緒に作る」、「やり方を教える」などさまざまな関わり方の選択肢が提示されました。

学習会に参加した児童館職員たちから、いくつかスタンスの異なる意見があがりました。
「一緒に作りたいが、助言はせずあくまで子ども主体で任せてみる。力仕事だけはやる、という程度にして見守る」
「仲間に入りたいが、まず入っていいかどうか聞き、子どもたちの選択に任せたい」
「写真の男の子たちは自ら作れそうな雰囲気なので、ペンキやマジックなどアイディアが膨らむような道具をそばにそっと置いておく。座ってこける可能性もあるが、そのくらいがよいかもしれない」


この写真の結果は、ひっくり返してベンチとして座ってみたものの、ゆっくりと壊れていったそうです。


大人の方が失敗を恐れている


「(うまくいかなくても)遊んでいるときのドラマって、そこから始まったりしませんか?」嶋村さんは語ります。積極的に大人が子どもの遊びに関わるか、環境の豊かさを最大化するように関わるか。関わり方は決して二者択一ではなく、立ち位置や状況、そして子どもたちが「どうしたいと思っているか」によって変わってきます。関わる大人は自己の関わりを見つめ直すとともに、そもそも大人が関わる前に、まずその子がどうしたいと思っているのか「みる」「感じる」ことが大切だと嶋村さんは指摘します。


また、「大人はどうしても失敗させてはいけないと思ってしまい、大人の方が子どもの失敗を怖がっている場合もあります。目的も手法も完成したプログラムがたくさん生まれている一方で、子どもが失敗できる場面が少なくなっています。大人の限界が、子どもの世界が広がる限界にならないようにしたいですよね」と、完璧を求めてしまう現代の大人の傾向を危惧していました。


学習会を通じ、児童館でも場面に応じて、子どもが自らのタイミングで決めて自由に遊ぶことに対し、大人がどこまでかかわり子どもの環境を豊かにできるのか、そのバランスを見極めることが重要ということを改めて学びました。


プレイワーカーと同様に、児童館では専門知識を持った職員が子どもたちの自主的な遊びに寄り添い、子どもたちの可能性を広げるサポートをしています。ぜひお近くの児童館で、多様な遊びを体験していただけたらと思います。



<嶋村仁志さんのプロフィール>
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1968年、東京都昭島市生まれ。東京都在住。
学生の時に友人に連れられてプレーパークに出会う。イギリスの大学で「プレイワーク」を学び、高等教育課程修了。1996年より、東京都世田谷区の羽根木プレーパークにて常駐のプレーリーダーを務める。その後、川崎市子ども夢パークを初めてとして、各地の冒険遊び場のスタッフを歴任。フリーランスとなり、国内外の冒険遊び場づくりをサポートし、研修や講演会を各地で行っている。2010年、「すべての子どもが豊かに遊べる東京」を掲げ、TOKYO PLAYを設立。IPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア・太平洋地域副代表(2005~2011)。大妻女子大学非常勤講師。一般社団法人TOKYO PLAY代表理事。2003年より日本冒険遊び場づくり協会理事。共著『子どもの放課後に関わる人のQ&A50』学文社2017、翻訳『グラウンド・フォー・プレイ イギリス冒険遊び場事始め』鹿島出版会2011がある。

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